清くて正しい社内恋愛のすすめ

違和感

 約束の時間にホテルのロビーに降りると、すでに加賀見はフロントの椅子に腰かけて待っていた。

 スマートフォンを操作する加賀見に、穂乃莉は小走りで近づく。

 穂乃莉の姿に気がつくと、加賀見は小さく手を上げた。


「どうだった? ツアーの方は大丈夫そう?」

 心配そうな顔を覗かせる穂乃莉に、加賀見は落ち着いた笑顔を見せる。

 その顔つきを見て、穂乃莉はいくらか安心した。


「あぁ。なんとかな。ルート変更したけど、行程はこなせそうだ。ただ、観光地を巡る順番が多少前後するから、今添乗員が各参加者に説明して回ってる」

「そっか。でもこれで、少しは安心できるね。本当にお疲れ様」

 にっこりとほほ笑む穂乃莉を見て、加賀見が小さく首を振る。

「一人にさせて悪かったな」

「気にしないで」

 加賀見が腕時計を見た後「行こうか」と外を指さし、二人はゆっくりと玄関をぬけて歩き出した。


 “東雲リゾートホテル”までの道は緩やかな上り坂だ。

 加賀見は穂乃莉の歩調に合わせてゆっくりと足を進めてくれる。
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