清くて正しい社内恋愛のすすめ
 手のひらに再び加賀見の体温を感じ、穂乃莉の心臓はまたドキドキと駆け足になってくる。

 自分の鼓動を全身で感じながら、穂乃莉は加賀見と手を繋いで坂道をゆっくりと上っていった。


 レストランに到着すると、すぐに受付のスタッフが笑顔で現れる。

 すでに支配人から話が通っているようで、名乗る前に個室へと案内された。

 特別室のような個室は、細かい装飾のシャンデリアのかかる広間で、真ん中に重厚感のある四角いテーブルが置かれている。

「原田はもう少しで参りますので、お掛けになってお待ちください」

 スタッフに椅子を引かれ、穂乃莉と加賀見は隣同士に腰を下ろした。


 テーブルの上には食器がセッティングされており、並べられたナイフとフォークの本数から、ディナーはフランス料理のフルコースだろうと予想される。

 スタッフは慣れた手つきでスパークリングウォーターを注ぐと、丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。


 穂乃莉は鞄から企画書と名刺を取り出すと、テーブルの脇に置く。

 きっと支配人とのディナーなど、もう二度とないチャンスだ。
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