清くて正しい社内恋愛のすすめ
 今が支配人とのディナー中だということは、みんなが承知しているはずだ。

 それをわざわざ連絡してくるということは、加賀見が対応していたトラブルの件で何かあったに違いない。

 穂乃莉も加賀見も今はスマートフォンの電源を切っていた。

 卓は加賀見に連絡がつかないために、やむを得ずホテルに問い合わせをしたのだろう。


「原田支配人、大変申し訳ございません。会社で少々トラブルが発生しておりまして……」

 加賀見が遠慮がちに声を出すと、支配人は「おぉ、それは大変だ」と大袈裟な声を上げる。

「こちらのことはお気になさらずに。プランの件はそちらの……えぇっと、久留島さんでしたかな? 彼女から伺っておきますよ」

 支配人は穂乃莉の名刺をチラッと見てから、大きくうなずいた。

「大変申し訳ございません。一旦、失礼いたします」

 加賀見はそう言うと席を立ち、穂乃莉にそっと顔を寄せる。


「悪い、穂乃莉。できるだけ早めに戻る」

「うん、大丈夫。加賀見が戻るまで、何とか繋いでおくから」

「頼む」

 穂乃莉に小さくうなずくと、加賀見は足早に部屋を出て行った。
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