清くて正しい社内恋愛のすすめ
 “東雲“は上層階に、温泉付きの特別室を複数用意していたが、その中でも一番豪華なロイヤルスイートルームは一室のみだった。

 それがきっと目の前のこの部屋だろう。


 ――スイートルームをお客様に提供せずに、自分の執務室にしてるってこと……?


 穂乃莉の中で、小さな疑問がふつふつと膨らみだす。

 ホテルにとって一番大切にすべきは、ホテルを訪れるお客様であるはずなのに……。


 その時、支配人がキーを扉の画面にかざした。

 ウィーンという機械音と共に、扉のロックが解除される。

 重そうな扉を押し開けた支配人の後に続いて、穂乃莉は広い室内へと足を進めた。

 静かに閉じられた扉は、穂乃莉の背後でカチャリと音を立てて、オートロックの鍵がかかる。


 広い執務室は支配人の説明通り、客室からはレイアウト変更されているようで、真ん中に応接セットがあり、窓際には執務用の大きなデスクが置かれていた。

 目の前のガラス張りの窓からはオーシャンビューが望め、夜の海と星空はどこが境目かもわからないほど深く広がっている。

 そしてすぐ足元には、さっき穂乃莉たちが歩いて登ってきたショップが建ち並ぶ地域の夜景が、控えめな光とともに輝いて見えた。
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