清くて正しい社内恋愛のすすめ
 圧倒されそうなほどの景色に、穂乃莉は思わず目を見張る。

「お気に召しましたかな?」

 支配人は満足そうにそう言いながら上着を脱ぐと、ネクタイを緩めながら穂乃莉にソファを勧めた。

 急にラフになった支配人の姿に、穂乃莉は戸惑いつつ浅く腰を下ろす。

 緊張した面持ちで支配人を目で追うと、支配人は壁際に置いてある立派な戸棚に向かった。

 そして中から丈の低いワイングラスを二つ取り出すと、黄色いラベルのお酒を注ぎだした。


「ラム酒はお好きですかな?」

「ラム酒……ですか?」

「これは風味豊かで口当たりがよく、女性にはとても人気がある」

 支配人はそう言いながらテーブルにグラスを並べて置くと、穂乃莉の向かいに腰かけた。


「で、では、原田様。早速、プランの説明をさせていただきます……」

 穂乃莉は声を上ずらせながら、足元に置いた鞄を持ち上げると、企画書を取り出した。

 支配人は急ぎの仕事をする様子もなく、ソファの背もたれに腕をかけながら、穂乃莉の姿をじっと見ている。


 さっきから支配人の醸し出す雰囲気と、行動の意図がわからない。

 穂乃莉を見つめる目つきには、どことなく背筋を緊張させるいやらしさが含まれている気がした。
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