清くて正しい社内恋愛のすすめ
 それでも“これ以上、説明の機会を逃すわけにはいかない“という焦りが、穂乃莉の判断を鈍らせた。


 ――この日のために、みんなで努力して作り上げたプランなんだから。


 穂乃莉がかすかに震える手で企画書を広げると、突然目の前にグラスが差し出される。

 穂乃莉はビクッとして息を飲むと、恐る恐る目の前の支配人の顔を見上げた。


「まずは私の一杯に、お付き合いいただきましょう」

「で、ですが……プランの説明が……」

「まぁまぁ、硬いことを言わずに。どうぞ」

 支配人に無理やりグラスを手渡され、穂乃莉は仕方がなくグラスを手にする。


「乾杯」

 支配人はグラスを軽く持ち上げると、ぐっとお酒を喉に流し込んだ。

 その様子を見て、穂乃莉も同じようにグラスに口をつける。


 その瞬間、グラスに当てた唇がビリッとする感覚と共に、甘いラム酒が流れた部分が焼けるように熱くなる。


 ――なんて、強いお酒なの……。


 視界は一瞬でぐらぐらと乱れ、思わずこめかみに手を当てた穂乃莉は、手元から企画書とグラスを床に落としていた。
< 123 / 445 >

この作品をシェア

pagetop