清くて正しい社内恋愛のすすめ
　加賀見の話に女性はかすかに眉をひそめると、困ったように声を出す。

「あの失礼ですが、お名刺など頂戴できますでしょうか？」

「はい……」

　加賀見は名刺ケースを取り出そうと胸ポケットに手をやり、自分が上着を着ていないことに気がついた。

　慌ててレストランに向かったため、すべてロビーの椅子に置きっぱなしだったのだ。


「ちょっと失礼……」

　加賀見は慌ててロビーの脇へ走ると、椅子の上に置きっぱなしになっていた上着と鞄をわしづかみにした。

　フロントに目を向けると、さっき話をした女性スタッフが、フロントの責任者のような男性スタッフを呼んで相談している様子が見える。


　支配人の居場所を教えろなどと突然迫ったのだから、不審がられてもしょうがない。

　できるだけ相手を刺激しないようにしなければ。


　加賀見はスーツの上着を羽織ると、名刺を取り出してもう一度フロントに向かった。

　加賀見が口を開こうとしたその時、誰かが隣を通りかかる。


「あれ？　加賀見さん？」

　見ると声をかけてきたのは、昼間に加賀見がプランの説明をした営業担当の吉村だった。
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