清くて正しい社内恋愛のすすめ
 吉村は勤務を終えて帰宅するところなのか、コートを羽織り、鞄を持っていた。

「もうディナーは終わりましたか? 支配人の反応はいかがでした?」

 仕事モードから一転してフレンドリーに話しかけてきた吉村に、加賀見は慌てて詰め寄る。


「実は私が席を外している間に、支配人と久留島がどこかへ移動したようなのです。今状況を確認している所でして……」

 加賀見が探るように声を出すと、吉村の目が小さく見開き、一瞬泳いだように感じた。

 加賀見はそれを見逃さず、吉村にさらに一歩詰め寄る。


「支配人がどちらに行かれたか、心当たりがあるのでは?」

 加賀見の質問に、吉村は気まずそうに目線を逸らす。

「いや……私は特に何も……」

「では、今すぐに確認してください」

「そう言われても……」


 加賀見は、顔を背けようとした吉村の鼻先に顔を寄せる。

「吉村さん! 何かあってからでは遅いんですよ!」

 加賀見の低いがすごみのある声に、吉村は一瞬逡巡した後、フロントに向かった。

 そしてフロントの責任者らしき男性を呼び寄せると、何か小声で話しかける。
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