清くて正しい社内恋愛のすすめ
「支配人! 開けてください!」

 ドンドンと扉を拳で叩き、ドアノブをガチャガチャと壊れんばかりに動かし続ける。


 しばらくして「誰だ!」という怒鳴り声と共に、ドアのロックが解除された。

 顔を覗かせた支配人の姿を見た途端、加賀見は怒りで己を忘れそうになる。

 支配人はワイシャツ姿で、撫でつけられていた髪は乱れていた。

 どう考えても、企画の説明を聞いていたようには見えない。


「き、君は!?」

 支配人の声を聞くや否や、加賀見は支配人を腕で突き飛ばすと、部屋の中に飛びこんだ。


「穂乃莉!」

 加賀見は名前を叫びながら、広い室内をぐるりと見回す。

 すると真ん中のソファの上で、身体を丸めて震えている穂乃莉の姿を見つけた。

 穂乃莉は必死に、自分の身体を両手で抱きかかえるようにして顔をうずめている。


「穂乃莉!」

 加賀見は再び叫び、穂乃莉の前に駆け寄った。

 穂乃莉は加賀見の声にビクッと身体を揺らすと、恐る恐る顔を上げる。


「……加……賀見」

 穂乃莉の声はかすれている。

 穂乃莉は自分を抱えていた手をほどくと、顔をくしゃくしゃに歪めた。

 必死に抵抗したのか、穂乃莉の髪の毛や衣服は乱れている。
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