清くて正しい社内恋愛のすすめ
「何を馬鹿なことを……」

 ここまで来てこの言い草とは、呆れてものが言えないというのは、こういう時に使うのか。


「穂乃莉、もう帰ろう」

 加賀見は小さく声をかけると、穂乃莉の肩を支えながらそっと立ち上がる。

 穂乃莉は小さくうなずくと、加賀見に寄り添うように歩き出した。

 支配人はその様子を横目で見ながら、再び「ふん」と声を出す。


「こんな企画。本気で通ると思っていたんですか? せっかく力になってあげようとしたものを……」

 支配人はそう言うと、企画書をデスクの上にポンと投げ捨てる。

 加賀見がピクリと反応するのと同時に、隣で穂乃莉が小さく息を飲んだ。


「そうですか。つまりこれが、東雲のやり方ということですね?」

 加賀見の言葉を聞いた途端、支配人が鬼の形相を向けた。

「なんだと!? 若造が偉そうに! 弱小代理店ごときが、何をほざくか!」

 支配人は人が変わったように怒鳴りつけると、デスクに拳を突き立てる。

 ドンっという音が響き、一瞬室内に静寂が訪れた。


 それでも加賀見は顔色一つ変えず、支配人を静かに見返す。

「弱小なら、何をされても文句は言えないと。そう、おっしゃりたいんですか?」

 あくまで冷静な声を出す加賀見に、支配人は何も答えない。
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