清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見はたまらずに、穂乃莉を抱き寄せるとその細い体を力いっぱい抱きしめた。

 自分がこんな目に合っても、まだ加賀見やチームのメンバーのことを思いやる穂乃莉に、たまらなく胸が苦しくなる。


 加賀見は再び「くっ」と小さく声を漏らすと、拳をぐっと握り締めた。

 穂乃莉をこんな目に合わせた支配人が憎くてたまらない。

 そしてそれ以上に、この事態を防げなかった自分に、腹が立ってしょうがなかった。


 しばらく室内には、穂乃莉のしゃくりあげる声だけが響いている。

 ふと目に入ったベッドサイドのデジタル時計は、もう夜も遅い時刻を表示していた。

 加賀見はそっと穂乃莉の肩を支えると、顔を覗き込む。


「もういい。もう今日は何も考えるな。俺はずっと穂乃莉の側にいるから。安心して、今日は休んでいいよ」

 加賀見は自分の中に渦巻く思いをすべて飲み込むと、穂乃莉の頬に手を触れながら声を出した。

 とにかく今は、穂乃莉を休ませてやりたいという思いが先に立つ。


「加賀見……」

 穂乃莉は加賀見の顔を見上げると、しばらくして小さくうなずく。

 穂乃莉は上着だけを脱ぎ、頬にこぼれた涙を手で拭いながらベッドに横たわった。
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