清くて正しい社内恋愛のすすめ

本当の魔法

 空調のかすかな動作音が耳に入り、加賀見ははっと目を覚ました。

 隣では穂乃莉の穏やかな寝息が聞こえている。

 やはり穂乃莉は、心身ともに疲れていたのだろう。

 何度もキスを重ねた後、夢に落ちるようにコトッと眠ってしまった。

 そして加賀見自身も、その安心しきった穂乃莉の顔を眺めているうちに眠ってしまったようだ。


 加賀見はベッドからそっと下りると、ベッドサイドに椅子を移動させる。

 耳にはすーすーという一定のリズムで、穂乃莉の呼吸音が聞こえている。

 それを心地よく感じながら、加賀見は椅子に腰かけるとスマートフォンを取り出した。


 画面には相田からの着信とメッセージが、何件も表示されている。

 昨日、相田から話を聞いた後、加賀見はすぐにレストランに駆け込んだ。

 そのまま、あの事態を目の当たりにして、今に至るのだ。


 ――きっと課長、心配してるよな。


 スマートフォンに表示されている時刻は、とっくに日付をまたいでいる。

 加賀見は画面をタップすると、相田宛に簡単にメッセージを送った。


 詳しく説明すれば当然、穂乃莉が支配人にされたことを話すことになる。

 穂乃莉がそれを嫌がるかも知れず、詳細は出社してから報告した方が良いだろう。
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