清くて正しい社内恋愛のすすめ
 寝返りを打とうとした穂乃莉は、シーツに重みを感じてゆっくりと瞼を押し開けた。

 ホテルの高層階のカーテンの隙間からは、うっすらと白みがかっている空がのぞいている。

「朝……?」

 銀色にも見える空の色は、これから上る朝日を待ち構えているかのようだ。


 ぼんやりする頭でのそのそと身体を起こそうとした穂乃莉は、手のひらに温もりを感じ慌てて目線を落とす。

 見ると穂乃莉の手を握ったまま、加賀見がベッドサイドで突っ伏していた。

 どうも加賀見は、椅子に腰かけたまま眠ってしまったようだ。

 脇には加賀見が外したネクタイと、上着が無造作に置かれている。


「加賀見、起きて。ちゃんと寝ないと風邪ひいちゃうよ」

 穂乃莉は慌てて起き上がると、加賀見の肩を軽く揺する。

 加賀見は「うーん」と小さな声を上げながら顔をこちらに向けたが、やはり疲れているのか、それでも起きる様子はなかった。


 穂乃莉は寝息を立てている加賀見の、整った横顔を覗き込んだ。

 昨夜(ゆうべ)、加賀見は結局自分の部屋には戻らず、一晩中穂乃莉の手を握っていてくれたのだろう。
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