清くて正しい社内恋愛のすすめ
「だから、ゆっくり眠れたんだ……」

 穂乃莉は加賀見の肩にジャケットをかけると、指先でそっと加賀見の頬に触れる。

 昨日の恐ろしかった出来事も、悔しくて涙が溢れたことも、夢だったのではないかと思うほど今は気持ちが落ち着いている。

 それは加賀見がずっと側にいてくれたからにほかならない。

 あんな事があったとはいえ、昨日はどれだけ加賀見に抱きしめられたんだろう。

 加賀見の温もりと力強さをその身で感じる度、自分は愛されているんじゃないかと思ってしまう。


「それと……」

 穂乃莉は自分の唇にそっと指で触れた。

 “魔法だから”と穂乃莉がねだった加賀見のキス。

 それは今までで一番長くて、一番深くて、一番優しいキスだった。


 ――それに、すごく甘いキス……。


 穂乃莉は、息も上がるほどに加賀見と唇を重ねた自分を思い出し、ぼっと沸騰するように真っ赤になる。

 今冷静になって思い起こすと、なんて大胆なことを言ってしまったのだろう。

 穂乃莉は頬を赤く染めたまま、加賀見の艶のある黒髪に手を伸ばした。
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