清くて正しい社内恋愛のすすめ
「ゆっくり眠れたか?」

 加賀見の低くて優しい、いつもの声。

 穂乃莉は頬に当てられた手に、自分の手を重ねると大きくうなずいた。


「すごくスッキリしてるよ」

「そうか、安心した。もう、大丈夫か……?」

 加賀見が少し気使ったような声を出す。

「うん。加賀見がずっと側にいてくれたから、もう大丈夫。本当にありがとうね」

 穂乃莉は加賀見を安心させるように、手をキュッと握った。


「加賀見はやっぱりヒーローだった」

「ヒーロー?」

「助けに来てくれたこと。本当に嬉しかったの。それに、支配人にガツンと言ってくれたしね」

 穂乃莉がパンチをする振りをして、二人は顔を見合わせると声を出して笑った。

 穏やかな空気が二人を包み込む。


 するとしばらくして、加賀見が急にまじめな顔つきになり、静かに口を開いた。

「でも俺は、穂乃莉に怖い思いをさせてしまった。お前の中から、昨日の記憶を消し去りたいくらいだ……」

 うつむく加賀見の言葉に、穂乃莉は身を乗り出すと、加賀見の両肩に手をのせぐっと顔を覗き込ませた。
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