清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穂乃莉は愛しさをかみしめながら、加賀見の背中に回した手に力を込める。

「一旦部屋に戻って、準備してくるから」

 加賀見は穂乃莉を優しく抱きしめたまま、穂乃莉のおでこにキスを落とした。

「うん」

「また後でロビーでな」

「うん。また後で……」

 そう言いながらも、穂乃莉は名残惜しくて潤んだ瞳を加賀見に向ける。

 加賀見は穂乃莉の頬に触れると、再び優しくキスをした。


 加賀見の後姿とともに、扉の閉じる音が響く。

 穂乃莉は胸元が乱れたシャツに手をやって、途端に顔じゅうを真っ赤にした。


 ――あんなに余裕のない加賀見、初めて見た……。


 穂乃莉は自分の両頬に手を当てると、「きゃ」と一人声を上げる。

 今になってまた体温が上昇しそうだ。

 熱を帯びた加賀見の瞳に見下ろされ、情熱的に求められたことに、どんどん心が満たされていく。


 ――加賀見、すごく優しかった……。


 穂乃莉は湧き上がる感情の余韻を包み込むように、まだ熱のこもる自分の身体を、キュッと両手で抱きしめた。
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