清くて正しい社内恋愛のすすめ
 扉が背後で閉まる音を響かせた途端、加賀見は真っ赤になった顔を腕で隠す。

 そのまま小さく声を上げながら、廊下の壁に寄りかかった。


 ――止められなかった……。


 頬を紅潮させた穂乃莉の顔を思い出し、加賀見は天井を仰ぐと、目を閉じて壁に頭をコツンとぶつける。


 穂乃莉にキスをした瞬間から、加賀見は穂乃莉が欲しくてたまらなくなった。

 頭では“止めなければ”と思ってるのに、沼にはまるかのように何度も何度も穂乃莉にキスを降らせた。


「こんなの初めてだ……」

 あのまま課長からの電話が鳴っていなかったら、今頃どうなっていただろう。

 まるで溶けそうに潤んだ瞳で、自分を見上げる穂乃莉の顔が瞼にチラつく。


 首筋に加賀見の唇が触れた時、穂乃莉は加賀見の背中に回した手でギュッとしがみつきながら、息をのむように小さな声を上げた。

 普段は決して見せない穂乃莉の姿に、加賀見の気持ちは余計昂った。

 あの時、穂乃莉も加賀見と同じように、その先を求めていたと思う。

 でも……。


 その時、再び着信音が廊下に響き渡り、加賀見はポケットからスマートフォンを取り出すと、急に仏頂面になり画面をタップする。

「陵介か?」

 スピーカーからは、急いたように相田の声が聞こえた。
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