清くて正しい社内恋愛のすすめ
 その拍子に椅子が後ろに倒れ、大きな音を立てる。

「おかしいでしょ!? こんなの、警察に訴えてもいいレベルだよ!?」

 玲子は何度も机を叩き、しまいには机に突っ伏して泣き出した。


「玲子さん」

 卓が玲子の肩に手をかける。

「あんまりじゃない……。悔しすぎるのよ。穂乃莉ちゃんが必死に頑張ってたの、あんただって見てたでしょ!?」

 玲子は卓の顔を睨みつけている。

 卓もやるせない顔つきのまま、穂乃莉に目を向けた。

「僕も、せめて東雲の本社には言った方が良いと思いますけど……」

 みんなの視線が集中し、穂乃莉は口を閉ざすと机に目線を落とした。


「ねぇ、加賀見。東雲の本社には、報告しないで欲しいの……」

 飛行機を待つ空港のロビーで、穂乃莉がそう言った時、加賀見は驚いた顔をして振り返った。

「どうして!? お前がどんな目に合ったと思ってるんだよ!」

 加賀見は強い口調になると、悔しさをにじませた拳をぐっと握りしめる。

 あんな場面に出くわしたのだ。

 支配人を許せないという、加賀見の気持ちは痛い程によくわかる。
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