清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穂乃莉は、握りしめてかすかに震える加賀見の拳を、包むように両手を乗せた。

「東雲の本社に今回のことを報告したら、巡り巡っておばあさまの所へ連絡が入ると思うの。東雲グループと久留島グループは、深い付き合いはないけれど、お互いの存在は意識している会社同士だから……」

 加賀見は穂乃莉の話をじっと聞いている。

「おばあさまが今回のことを知ったら、当然許さないと思う。私と一緒にいたせいで、加賀見にも処分があるかも知れない……」

「そんなの! 俺の処分なんか、どうだっていいんだよ」

 加賀見は穂乃莉の両腕を掴むと、キュッと力を込めた。

 加賀見の温かくて力強い腕に支えられ、次第に穂乃莉の頬をぽつりぽつりと涙が伝う。


「それだけじゃないの。きっと私はすぐにでも久留島に連れ戻される……。退職までの残りの日数を、加賀見と過ごす大切な時間を、永遠に失ってしまう……」

 穂乃莉は消え入るように声を出すと、うつむきながら声を抑えて泣き出した。

「穂乃莉……」

 加賀見は穂乃莉の想いを知り、静かに目を閉じると、穂乃莉の頭を抱えるように優しく抱きしめる。
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