清くて正しい社内恋愛のすすめ
　花音は、穂乃莉が加賀見との時間を失いたくないためにこの決断をしたことを、わかっているのだろうか。

「さっきのお話を聞く限り、支配人は加賀見さんの脅しに、相当なダメージを受けてます。いつ本社から呼び出されるかって、きっと今頃びくびくしてるはずですよぉ？」

　花音は急に、いつものような口調になると指をピンと立てた。

「ま、まぁ、確かに……」

　玲子と卓は目を丸くすると、きょとんとした顔をする。


「しばらくは大人しくなるだろうし、そんなすぐに訴えるより、びくびくさせといた方がきっと効果的ですよぉ。それで……春が過ぎたら、訴えたらいいんです……」

　花音は泣いているのだろうか？

　最後の方は消え入りそうに、声が震えていた。


　穂乃莉は溢れてきた涙を手で拭うと、加賀見を振り返る。

　加賀見は口元を引き上げると、小さくうなずいていた。

「花音ちゃん。ありがとうね……」

　穂乃莉はそう言うと、相田を振り返った。

　じっと目を閉じて黙っていた相田は、ゆっくりと瞼を開けると、優しくほほ笑んでいる。
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