清くて正しい社内恋愛のすすめ
「お前、今何か想像しただろ?」

「し、してないよ……」

「嘘だな。穂乃莉の嘘は、すぐ顔に出るんだよ」

 にやりと笑う加賀見に再び顔を覗き込まれ、穂乃莉はさらに顔を真っ赤にした。


 加賀見は穂乃莉の様子に、くすりと肩を揺らすと「ほら」と手を差し出す。

 ドキドキしながら手を繋ぐと、途端に心が安らぐ気がした。

 眠気と相まって、ふわふわとした足取りで、ゆっくりと夜の歩道を進む。

 すると「そういえば……」と加賀見が声を出した。


「来週あたりの週末にでも、どこか出かけるか?」

「え……?」

「あんまり恋人らしいことできてないし、どうかなと思ったんだけど」

 加賀見は慌てて目を逸らすと、照れたように頭に手をやっている。

 突然の加賀見の提案に、穂乃莉は目を丸くすると、ぽかんと口を開けた。


 ――お出かけ……? それって、もしかして……デートってこと!?


 じわじわと嬉しさがこみ上げ、穂乃莉は加賀見の横顔をまじまじと見上げる。


「東雲の仕事もなくなって、穂乃莉も少し余裕ができるだろ? だからたまには休みの日に、出かけても良いかなって……」

 珍しくもごもごと口を動かす加賀見は、急に幼くなったようで可愛らしい。

 この時ばかりは腹黒王子の顔も、なりを(ひそ)めているのか。
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