清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穂乃莉は途端に胸をキュンとさせると、加賀見の腕に飛びついた。

「行きたい……。加賀見と一緒に、お出かけしたいな……」

 頬をピンクに染め、恥じらうように甘える穂乃莉に、加賀見は再びくすりと笑う。

「じゃあ、行きたいとこ。考えといて……」

 加賀見が耳元でささやきき、そのまま穂乃莉の頬に唇を近づけた時……。

 「あぁぁぁ!!」という叫び声が遠くから聞こえた。


 顔を上げると、前を騒ぎながら歩いていたはずの玲子が、振り返っているではないか。

「ちょっと、そこぉ! 寂しい独り身の前で、イチャつくんじゃないわよ!」

 玲子は仁王立ちになりながら、人差し指を突き出している。

 穂乃莉はギョッとすると、あわわと両手を横に振った。


「おい、石崎。人の恋路の邪魔はするな」

「そうですよ、玲子さん」

「めいっぱいイチャつかせてあげましょうよぉ」

 相田たち三人の声が遅れて聞こえ、玲子はそのまま相田と卓の二人に両脇を抱えられながら引きずられていく。

 まるで連行されるかの様な玲子の姿に、穂乃莉は加賀見と顔を見合わせると、肩を寄せ合いながらくすくすと笑った。


 ――加賀見とデートかぁ……楽しみだな。


 穂乃莉はドキドキする鼓動を感じながら、再び加賀見の腕にそっと自分の腕を絡めた。
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