清くて正しい社内恋愛のすすめ
「東雲社長……」

 東雲はひどくショックだったのだろう。

 悔しさをにじませた瞳で、拳をギュッと握り締めていた。


「支配人については、即刻辞表を提出させました。今は新しい支配人のもと、ホテルを再生させるため、従業員と共に歩みだしたところです」

「そうなんですね……」

 あの支配人も、吉村という目撃者がいたことで、問題をうやむやにすることはできなかったのだろう。

 これでさらなる被害者が出ることはなくなる。

 穂乃莉はほっとして、心が軽くなった気がした。


「支配人が私物化していた、ロイヤルスイートルームの改修工事も着手しました。自分の利益を優先し、ホテルにとって最も大切にすべきお客様を、ないがしろにしていた支配人の行為は、許されるものではありません」

 穂乃莉は東雲の発言に驚く。

 東雲はまだ若いが、とてつもなく高い社長としての判断力と行動力が、備わっている人物なのだろう。


 ――とてもカリスマ性のある人。さすが、東雲グループの社長だな……。


 すると、ぼんやりとそんな事を思っていた穂乃莉の目の前に、東雲がそっと資料を差し出した。
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