清くて正しい社内恋愛のすすめ
「久留島社長のお孫さんが、関連会社で社員として働かれていたとは、知らなかったもので」

 東雲の言葉に、穂乃莉は「あぁ」と小さく相槌をうつ。

「私が希望したんです。何も経験せずに祖母の元で働くのではなく、ちゃんと社会人として自分の力で働いてから、久留島に入りたいって」

「それで、働いてみて、どうでしたか?」

「かけがえのないものを得られました。仲間と一緒に、悩んだり苦しんだりしながらも、同じ目標に向かって努力することの素晴らしさを知りました。きっとこの経験は、これから先も私にとって、大きな自信になると思います……」

 穂乃莉はそこまで言って、急激に寂しさが込み上げ小さく息を吐いた。


「一つ伺っていいですか?」

 しばらくして、東雲が静かに声を出す。

 穂乃莉は首を傾げると、東雲を見上げた。

「支配人の件、なぜ(おおやけ)にしなかったのですか? うちは、久留島社長に怒鳴り込まれても、文句を言えない立場です。どうしてもそこが気になって……」

 穂乃莉は一旦考え込むように、目の前のシルバーの扉をじっと見つめた。

 東雲に本心を話しても良いものだろうか……。

 穂乃莉の中で心が葛藤する。
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