清くて正しい社内恋愛のすすめ
 東雲はため息をつくようにそう言うと、そのまま車のシートに腰を沈める。


 ――褒められたのかな?


 穂乃莉は照れた顔をすると、小さくほほ笑んだ。


「次はプラン説明の際に、伺わせていただきます」

 気を取り直すようにそう言い、穂乃莉が扉を閉じようとした時、東雲が何か言おうとしてそれを制止する。

 穂乃莉は小さく首を傾げると、後部座席に座る東雲の顔を覗き込んだ。

 東雲の頬がうっすらと色づいて見えるのは、外が暗いせいだろうか?


 穂乃莉に顔を覗き込まれた東雲は、慌てたように片手を上げる。

「いえ、何でもありません。またプラン説明の時に……」

 東雲は言いかけた言葉をのみ込むと、そう声を出した。


 穂乃莉はその様子が気になりながらも、会釈をすると扉をパタンと閉じる。

 車はゆっくりとスピードを上げながら、交差点を曲がっていく。

 穂乃莉は車を見送った後、急いで踵を返すとエントランスに駆け入った。


 ――加賀見に……みんなに、早く報告しなきゃ!


 にこにこと頬を緩めながら、エレベーターのランプが下りてくるのを、今か今かと待ち構える穂乃莉の心は、とても満ち足りていた。
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