清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穂乃莉は、はやる気持ちを抑え込むようにエレベーターに乗り込むと、国内チームのフロアの階数ボタンを押した。

 ゆっくりと閉じる扉の、この数秒さえももどかしい。

 穂乃莉は「早く、早く」と呪文のように唱えながら、ランプが上昇するのを見つめた。


 東雲との話を聞いたら、みんなはどんな顔をするだろう。

 ひとりひとりの顔を思い浮かべながら、穂乃莉はエレベーターが到着した途端、駆けだすとフロアに飛び込んだ。


「穂乃莉さん!」

 穂乃莉の姿を見つけた花音が、真っ先に声を上げた。

 みんなは穂乃莉たちが戻るのを待っていたようで、定時も過ぎているのに、さっき穂乃莉が出て行った時と同じ様子で仕事をしていた。

 穂乃莉はみんなの元に小走りで近づく。

 どうも相田はまだ戻って来ていないようだ。


「穂乃莉、大丈夫だったか?」

 加賀見が心配そうな表情で穂乃莉の側に寄る。

 穂乃莉は加賀見の顔を見上げると、飛びつきたい気持ちを抑えながらうなずいた。


「結局、何の話だったの?」

 玲子が横から顔を覗かせた。

「実は……」

 声を出した穂乃莉の周りに、花音と卓も集まった。
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