清くて正しい社内恋愛のすすめ

突然のキス

「頭いたいな……」

　穂乃莉はこめかみを軽く押さえると、眉間に皺を寄せながらデスクのパソコンの電源を入れる。

　昨夜(ゆうべ)は一睡もできなかった。

　それもそのはず。

　数年ぶりのキスは、よりにもよって穂乃莉が極度にライバル視している同期のアイツに奪われたのだ。


　穂乃莉は、フロアの奥で楽しそうに談笑している姿を恨めしく見つめる。

　穂乃莉の頭痛の原因は、昨夜のことなんて何も気にしていない様子で笑っていた。


　――あんなキス、初めて……。


　穂乃莉は、無意識に自分の唇に触れた指を、慌てて引っ込める。

　昨夜、一瞬で骨抜きにされそうになった穂乃莉は、何とか自分を奮い立たせて一人でマンションまで帰宅した。


　フロアの奥をぼんやりと目で追っていた穂乃莉は、こちらへ向かってくる人の気配を感じて慌てて目線を逸らす。

「穂乃莉さん、おはようございますぅ！」

　明るい声とともに、可愛らしい栗色のボブヘアを揺らし、まん丸の瞳で覗き込んできたのは、後輩の宮原　花音(みやはら　かのん)だ。

　今日も相変わらず、まつ毛はくるんと上を向いている。
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