清くて正しい社内恋愛のすすめ
「できれば陵介と組んで、営業をかけて欲しいんだが……どうだ?」

「へ!? 加賀見とですか!?」

 相田の提案に、午前中のやり取りが思い浮かび、穂乃莉は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「陵介の事をライバル視しているのは知ってる。でも穂乃莉も、このチームで働くのはこれで最後になるしな。引継ぎも考えると、陵介に営業から一緒に入って欲しいんだ。だめか?」

「い、いえ……そういうわけじゃ……」

「相手は“久留島”に匹敵する、巨大グループだ。二人で何とか、ものにして欲しい」

 穂乃莉はしばらく押し黙り下を向いていたが、顔を上げると小さく「わかりました」と答えた。


 穂乃莉は社長に挨拶すると、相田と共に社長室を後にする。

 静かな廊下を歩きながら、そっと隣の相田を見上げた。

 相田は穂乃莉より五歳ほど上だ。

 常に穏やかな雰囲気を身にまとい、穂乃莉たち部下も名前で呼び捨てにするほど気さくな人柄だが、その柔らかな物腰とは裏腹に、異例のスピードで課長に昇進しているなかなかのやり手だった。
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