清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見はそんな様子にくすりと笑いながら、イルミネーションが光る街路樹の影に、穂乃莉の身体をぐっと引き寄せた。

「きゃ」

 穂乃莉は小さく悲鳴を上げながらも、加賀見の強引だけど優しい腕に身を任せる。

 街路樹に背中を預け、見上げた加賀見の熱を帯びた瞳に吸い込まれるように、穂乃莉はそっと目を閉じた。


 すると(せき)を切ったように、さっきの何倍も甘いキスが上から降り注ぐ。

 二人の熱いため息は、唇がわずかに離れる度にこぼれ出し、白い吐息になっては消えていく。


 しばらくして、何度もキスを重ねてふらつく穂乃莉の身体を、加賀見が力いっぱい抱きしめた。

「加賀見……?」

 穂乃莉はうっすらと目を開けると、揺れる加賀見の黒髪にそっと目をやる。


「いつか、俺も見に行くよ。その中庭……」

 加賀見の声を聞いた途端、穂乃莉ははっと小さく息をのんだ。

 耳元で聞こえるその言葉の先にあるのは、終わりを予感させるような響き……?


 ――そんなの、嫌……。


 穂乃莉は急に胸が締め付けられるように苦しくなって、必死に加賀見に手をのばす。


 ――お願い……この魔法をとかないで……。


 穂乃莉はそう願うように、加賀見の首元に手を回すと、何度も何度もキスをせがんだ。
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