清くて正しい社内恋愛のすすめ
 せっかくの初デートがドタキャンなんて、心底残念に思ってしまうのはしょうがないだろう。


 ――それも、告白しようとしてたデートだったし……。


 首元に加賀見の体温を感じながら、穂乃莉はそっと手を回すと、加賀見のスーツの裾をギュッと握る。


「ごめんな、穂乃莉」

「しょうがないよ」

「プラネタリウムは、今度必ず一緒に行こう」

 加賀見は顔を上げると、穂乃莉の頬に優しく触れた。

「うん」

 穂乃莉は加賀見の手に、自分の手をそっと重ねる。


 すると「それにしても……」と加賀見がチラッと会議室を振り返る。

「仕事が片付いたら、卓にはたっぷりお礼してもらわないと気がすまないな」

 加賀見が両手の拳を軽く突き合わせ、バチンバチンと音を鳴らす。

 良く響くその音に、穂乃莉は思わずぷっと吹き出した。


「卓くんも、相当ダメージ受けてそうだし、あんまりいじめないであげて」

「いや、この恨みは大きいからな」

 にやりと笑う加賀見に、穂乃莉はくすくすと声を出して笑った。


 しばらくして、会議室の中から「陵介」という相田の声が聞こえる。

 加賀見は中に向かって軽く返事をすると、穂乃莉を振り返った。
< 208 / 445 >

この作品をシェア

pagetop