清くて正しい社内恋愛のすすめ
 祖母から電話がかかってくるなんて珍しい。

 よほど重要な用事でもない限り、めったに電話をかけてこない祖母だ。


 ――まさか、東雲の支配人の件が耳に入ったとか……!?


 穂乃莉は次第にドキドキと脈が速くなるのを感じながら、画面をタップした。


「もしもし?」

 恐る恐るスピーカーに耳を当てると、予想外に明るく弾んだ祖母の声が聞こえた。

「穂乃莉、どう? そちらは変わりない?」

「うん。変わりなく元気にすごしてるよ」

「それは良かったわ」

 祖母は機嫌のよさそうな声で、ふふっと笑っている。

 東雲リゾートホテルでの一件は、やはり祖母の耳には届いていないようだ。

 穂乃莉はほっとすると、小さく胸をなでおろした。

 それにしても、何かよほど良いことでもあったのだろうか?


「急にどうしたの?」

 穂乃莉が不思議そうな声を出すと、祖母は少し間をおいて「実はね」と声を出す。

「穂乃莉にお願いがあるの。私の代わりに、接待で食事に行ってくれないかしら?」

「え!? 私が!? そんな、私で大丈夫なの?」

「もちろんよ」
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