清くて正しい社内恋愛のすすめ
「お待たせしました。今日はまた一段とお綺麗ですね」

 人々の視線を集めながら穂乃莉の前の席に腰かけたのは、つい先日顔を合わせたばかりの東雲だ。

「驚かせてしまいましたね」

 東雲は柔らかい笑顔でそう言うと、穂乃莉の瞳を覗き込むように見つめた。


 ――まさか、接待の相手って東雲社長!?


 驚きを隠せない様子の穂乃莉を見て、東雲は楽しそうにほほ笑む。


 東雲は会社で会った時よりも、幾分かくだけた表情をしている。

 東雲に瞳をじっと見入られて、穂乃莉は反射的に目線を逸らした。

 どうもこの人に見つめられると、ドギマギと戸惑ってしてしまう。


「あの……東雲社長。これはどういうことですか?」

 緊張した面持ちの穂乃莉を見て、東雲は「うーん」と少し困ったような声を出す。

「穂乃莉さん。今日はプライベートでお誘いしたのです。 “社長“はやめましょう」

「でも……私は祖母から接待と聞いて……」

「僕がお願いしたんです。穂乃莉さんには、僕が誘ったと言わないで欲しいと」

「ど、どうしてですか?」

 小さく顔を上げる穂乃莉に、東雲はくすりと肩を揺らす。
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