清くて正しい社内恋愛のすすめ
「穂乃莉さんは、とても真面目な方なのですね」

「いいえ。ただ不器用なだけです。自分で考えて経験してみないと、わからないんです。今の職場は、そんな私を受け入れてくれたので、本当に感謝しています」

　穂乃莉はそこまで言うと、ふと口を閉ざす。

　穂乃莉の脳裏には、まだ会社で仕事をしているであろう、加賀見の顔が浮かんでいた。


「穂乃莉さん？」

　東雲が不思議そうに顔を覗き込ませ、穂乃莉ははっとすると静かに顔を上げた。

「私の同期に、すごく仕事ができる人がいて。営業成績は常にトップだし、難しいお客様もいとも簡単に口説いてくる。それなのに、彼はいつも飄々(ひょうひょう)としていて、苦労なんか感じさせたことがないんです。だから、ただの世渡り上手な人なんだろうなって思ってて……私はずっと彼のことを、ライバル視してたんです」

　穂乃莉は窓の外の夜景に目を向ける。

「でも、本当は全然違った。すごく真剣に仕事に向き合って、努力してる人だってわかった……」

　東雲は静かに、穂乃莉の話に耳を傾けている。
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