清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穂乃莉は一瞬、母のいない寂しさを紛らわすために、あの本店の中庭に行っていた自分と東雲を重ね合わせる。

「でも穂乃莉さん。あなたには、一目でとても惹かれた。あなたのまっすぐさと、人を思いやる温かさを素敵だと思った。あなたをもっと知りたいと思った……。だから今日、食事にお誘いしたのです。でもあなたの心は、もう誰かのものになっているようですね」

 静かに淡々と話をする東雲に、穂乃莉は胸がギュッと苦しくなる。

 今までに、こんなにもまっすぐと、気持ちを伝えられたことがあっただろうか。


 穂乃莉はフォークを置くと、東雲の顔を見つめる。

「私も、母の愛情は知りません。私を産んですぐに、母は亡くなっています」

「そうだったんですか……」

「私にとっては、祖母が母親代わりでした。もし東雲さんが、今の私を幸せそうだと思うのでしたら、それは今私を支えてくれている祖母や、仲間のおかげだと思います。だから……」

「……だから?」
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