清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ――加賀見は、どう思っているの……?


 ふと頭の中がそのことでいっぱいになり、穂乃莉は慌てて取り繕うように顔を上げる。

 東雲は穂乃莉の様子に優しく目を細めると、「野暮なことを聞いてしまいましたね」と笑った。


 ちょうどデザートが運ばれてきて、それからは東雲が場を和ませるような話をしてくれた。

 もしかしたら東雲は、穂乃莉の様子から何かを感じ取ったのかも知れない。

 それでもそれ以上は何も聞かず、穂乃莉の気持ちを尊重するように接してくれた。

 そして穂乃莉は、そんな東雲の心づかいを、素直に素敵だと思った。


「穂乃莉さん。今日だけは、僕に送らせてくれませんか?」

 食事が終わり席を立った穂乃莉に、東雲がそっと手を差し出す。

「でも……」

 穂乃莉が応えかねていると、東雲が優しく口を開いた。

「それが久留島社長との約束ですので」

 東雲の言葉に、穂乃莉は顔を上げると、戸惑いながらもぎこちなく手をのせた。

 東雲にエスコートされるように、車の後部座席に乗り込む。
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