清くて正しい社内恋愛のすすめ

わだかまり

 東雲の車を見送った後、穂乃莉はマンションの部屋へ入ると、ふうと息をつきながらソファに腰かける。

 色々な感情が入り混じった一日だったが、今心の中はほんのりと温かい。

 軽く目を閉じると、瞼の裏にはまだ東雲の笑顔の余韻が残っているような気がした。


 穂乃莉はのそのそと鞄からスマートフォンを取り出すと、暗い画面をタップする。

 画面には特に何も通知はなく、加賀見からの連絡は入っていなかった。


 ――まだ仕事中……?


 画面に表示された時刻はもう遅い。

 たとえバス会社が見つかっていなかったとしても、さすがに会社は出ているはずだが……。


 穂乃莉はメッセージアプリを開くと、加賀見にメッセージを送る。

 しばらくじっと画面を覗いていたが、メッセージは既読にならなかった。


「どうしたんだろう……?」

 穂乃莉が次第に不安になった時、突然スマートフォンが着信音をたてる。

 慌てて画面をタップすると、スピーカーに耳を当てる前に、祖母の明るい声が漏れ聞こえてきた。
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