清くて正しい社内恋愛のすすめ
 東雲グループの社長ともなれば、今までにも結婚話はいくらでもあっただろう。

 それでも東雲自身が結婚に踏み出せないのは、本人も言っていたように、母親のことが大きいのかも知れない。


「穂乃莉、東雲さんとは仕事で会ったんですって? 教えてくれればいいのに。私はいいと思うのよね。穂乃莉の相手として……」

「ちょっと、やめてよ……。私はまだそんな気……」


 『そんな気ないから』そう言おうとして、穂乃莉は口をつぐむ。


 ――そんな気がないんじゃない……。


 穂乃莉は東雲に気持ちを告げられた時、はっきりわかったのだ。


 ――私は……加賀見がいいんだ。


 自分は加賀見でなければダメなのだと、苦しい程にわかったのだ。


「そんな気ない、だなんて。穂乃莉、あなたもしかして誰か相手でもいるの?」

「え……」

「あなたには久留島の将来がかかっているの。忘れないで。先に進む前に、必ず私に相談して。いいわね」

 祖母は念を押すようにそう言うと、穂乃莉の小さな返事を聞きながら電話を切った。


「先に進む前にって……もう遅いよ」

 穂乃莉はスマートフォンを握り締めたまま、バタンとソファに倒れ込む。
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