清くて正しい社内恋愛のすすめ
　そして、目に飛び込んできた車に乗り込む人影に、ぴたりと足を止める。

「どうしたんですか？」

　立ち止まった加賀見を、不思議そうに卓が見上げた。

　加賀見は息をのんだようにじっと動かない。

　首を傾げながら、加賀見の視線の先に目をやった卓と相田は、驚いた顔をすると同じようにぴたりと立ち止まった。


「え……？　穂乃莉さん……ですか？　一緒にいるの、誰だろう……？」

　卓が戸惑った声を出しながら、加賀見をチラッと見る。

　加賀見は何も答えずに、じっと車に乗り込む二人の様子を見つめている。


　手を引かれながら車に乗り込む女性は、いつもと服装や髪型の雰囲気は違うが、明らかに穂乃莉だ。

　そして穂乃莉を気づかうように、紳士的に振舞う男性。

　見たことのない人物だが、どこかの大企業の子息か重役でありそうなことだけは伝わってくる。


　――誰だ……？


　その時「え……」と相田が小さく声を上げた。

「……東雲社長だ」

　相田を振り返っていた加賀見は、はっとすると再び車に目を向ける。

　車はゆっくりと発進し、穂乃莉のマンションの方角へと消えて行った。
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