清くて正しい社内恋愛のすすめ
「え！？　東雲社長って、あの東雲グループの！？　あんなに若い人なんですか！？」

　卓が驚いたように目を丸くしながら叫び声を上げる。

「すごく親しそうでしたけど、穂乃莉さんって、元々東雲社長と知り合いだったんですか！？」

「いや、この前の謝罪の時が初対面だって言ってたはずだ。陵介は何か聞いてないのか？」

　相田と卓が、加賀見の顔を振り返る。

　加賀見は相田の問いかけには何も答えず、考え事でもするかのようにじっと歩道を見つめていたが、しばらくして前を向くと静かに歩き出した。


「課長……ちょっと、まずくないですか？」

　卓が相田にそっと耳打ちしている。

「うーん、どうだろうな……」

　相田の小さなため息が、かすかに加賀見の耳を通り抜けた。


　加賀見は、新幹線の座席に深く腰を沈めると、早いスピードで通り過ぎる田園風景をぼんやりと見つめる。

　あの夜の光景を見て、穂乃莉に対して何か思ったわけではない。

　巨大グループ企業の関係者である二人が、仕事で顔を合わせたのだ。

　加賀見にはわからない付き合いがあるのかも知れない。
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