清くて正しい社内恋愛のすすめ
 あの支配人の権力の中、たった一人で社長に告発するなんて、並大抵の覚悟ではできないことだ。

 吉村の晴れ晴れとした笑顔に、心から嬉しくなった穂乃莉は、加賀見と顔を見合わせるとほほ笑み合った。


 それからしばらくして、再び扉にノック音が響き東雲が現れた。

 東雲は目を見張るほどのオーラを放ち、部屋に入ってきた途端、会議室の空気がガラッと変わる。

 謝罪に訪れた時や、プライベートの時とは全く違う本来の東雲の雰囲気に、祖母が言っていた「すごく切れ者だから」という言葉が頷けた。


 穂乃莉は緊張した面持ちで挨拶を交わし、脇に控える東雲の社員と名刺を交換する。

 すると東雲がそっと穂乃莉の耳元に顔を近づけた。


「一緒にいるのが同期の彼?」

 穂乃莉は名刺を交換している加賀見をチラッと振り返ると、頬を赤くしてうなずく。

「なかなか有能そうですね。でも、穂乃莉さんにそんな顔させるんだから、やっぱり許せないな」

 東雲がくすりと肩を揺らし、穂乃莉はもっと顔を赤くすると軽く東雲を睨みつける。
< 235 / 445 >

この作品をシェア

pagetop