清くて正しい社内恋愛のすすめ
 夕日に染められて、加賀見の髪の毛はブロンド色に輝いている。

 風にその髪を揺らしながら、加賀見は穂乃莉の瞳をまっすぐに見つめていた。


「別に穂乃莉を責めるつもりはないよ。お互いの家が関係しているのかも知れないと思ったから。ただ……穂乃莉が他の男に手を引かれる姿は、見たくなかった」

 加賀見の低い声がずしんと心に響き、息がしづらい程に苦しくなる。

 そうだ。そんなの当たり前だ。

 たとえ祖母の名前を出されたとしても、あそこで東雲の手を取るべきではなかった。


「……ごめん」

 下を向いた穂乃莉の頬を、涙の粒がぽつりとこぼれ出す。

 歩道の真ん中で必死に涙が溢れるのを耐える穂乃莉の頭に、加賀見の温かくて大きな手が伸びた。

「俺も……イラついてごめん」

 加賀見は小さく息をつくと、穂乃莉を優しく抱きしめた。

 穂乃莉は加賀見のコートの裾を、ギュッと握り締める。


 しばらくして、加賀見は穂乃莉の頭にキスをするように、そっと唇を当てた。

 唇からは、加賀見の息づかいとともに、熱がじんじんと伝わってくる。

 穂乃莉はそれを感じながら、そっと顔を上げた。

「あのね、加賀見に話したいことがあるの」

 穂乃莉の真剣な表情に、加賀見は静かにうなずいた。
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