清くて正しい社内恋愛のすすめ

知られた契約

 会社に戻った穂乃莉と加賀見は、言葉数も少なく並んでエントランスをぬける。

 真剣な表情で「話がある」と言った穂乃莉に、加賀見もいくらか硬い表情を見せていた。

 ふとエントランスの受付を横切った際に、白戸の睨みつけるような視線を感じたが、穂乃莉は小さく「お疲れ様です」とだけ言って通り過ぎる。


「休憩スペースでいいか?」

 エレベーターホールまで来たとき、加賀見がボタンを押しながら穂乃莉を振り返った。

 穂乃莉は加賀見を見上げると、こくんと静かにうなずく。

 東雲とのこと、そして自分の中ではっきりとわかった加賀見への想い。


 ――ちゃんと、加賀見に伝えるんだ。


 穂乃莉はもう一度自分にぐっとうなずくと、ゆっくりと開く扉をもどかしく思いながら足を出した。


 到着した夕方の休憩スペースは、誰も人がおらずガランとしている。

「穂乃莉はミルクティーだよな?」

 加賀見の声が聞こえ振り返ると、もうすでにミルクティーの缶は音をたてて落ちて来ていた。
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