清くて正しい社内恋愛のすすめ
「ありがとう」

 取り出し口に手を入れる加賀見を見ながら、穂乃莉はくすくすと笑い声を立てる。

「どうかしたか?」

 加賀見が不思議そうな顔をしながら、穂乃莉にミルクティーを手渡した。

「だって、返事聞く前に買ってるんだもん」

 穂乃莉はそう言いながら缶を受取ると、温かい缶をそっと頬に当てる。

 外出で冷え切った身体が、次第に緩んでいくのを感じながら、加賀見の顔を見上げた。

 こういう些細なことで、自分はちゃんと見てもらえてるんだという安心感を与えてもらえる。


「あぁ、そうか」

 加賀見もくすりと肩を揺らすと、穂乃莉の頭にポンと自分のブラックコーヒーの缶をのせた。

 今度は頭がじんじんと心地よく温められる。

 穂乃莉は再び笑いながら、窓際の席に向かった。


 丸いテーブルを挟んで置かれているオレンジ色の椅子に、加賀見と向かい合って腰かける。

 穂乃莉はミルクティーを一口ごくんと飲み込むと、ゆっくりと口を開いた。
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