清くて正しい社内恋愛のすすめ
「山上さんだったら、すぐに行った方が良いんじゃない？」

　穂乃莉が声を出し、加賀見も小さくうなずく。

「あぁ、そうだな……。白戸さん、今山上の担当者が、受付に来てるってことでいいかな？」

「はい。名刺もお預かりしています」

　白戸が受付スタッフらしく、丁寧に名刺を差し出す。

　加賀見は立ち上がってそれを受取ると、穂乃莉を振り返った。


「ごめん、穂乃莉。ちょっと行ってくる」

「うん、わかった。私は先に戻ってるから」

「話は、また後で……」

　加賀見はそう言うと、名残惜しそうな顔を穂乃莉に向けてから、エレベーターホールへと小走りで駆けて行った。

　白戸は穂乃莉に深々と頭を下げると、口元を引き上げながら、加賀見の背中を追って走り出す。


　穂乃莉は複雑な気持ちで二人の後姿を見送ると、ふうと小さく息を吐いた。

「伝えられなかったな……」

　せっかく加賀見に気持ちを告白できると思ったのに……。

　穂乃莉は行き場のない気持ちを抱えたまま、一人でフロアへと戻って行った。
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