清くて正しい社内恋愛のすすめ
 その一環で、今回は営業ノウハウのレクチャーをして欲しいと、国内チームに依頼があった。

 研修の担当は、総務部長の強い意向で加賀見に決まったが、どうも受付スタッフの中で強い要望が上がっていたらしいことは、花音が聞きつけている。


「絶対に白戸さんが、強く押したんですよぉ!」

 花音が「きぃぃ」と今にも叫び出しそうな様子で、両手を大きく振る。

「そうかもね……」

 穂乃莉は小さく相槌をうつと、手早く帰り支度をして席を立った。

 駅に向かう歩道を歩きながら、首に巻いたマフラーをキュッと握り締める。


 加賀見に気持ちを伝えられなかった日から、もうだいぶ時間が経っていた。

 あの後、穂乃莉の東雲の仕事が本格始動したこともあり、時間に余裕がなくなったのに加え、今回の加賀見の研修だ。

 二人はお互いにゆっくりと向き合う時間が取れなくなっていた。


「一人きりの帰り道って、こんなに寒かったっけ……?」

 穂乃莉は小さくつぶやくと、寂しさを振り払うように大きく足を踏み出した。
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