清くて正しい社内恋愛のすすめ
 白戸は手早く着替えを済ますと、軽やかにロッカーの鍵をかける。

 すると同期の一人が、にまにまと楽しそうな顔つきで横から声を出した。


「咲良、最近ずいぶんと機嫌がいいじゃん」

「そう?」

 白戸は小首を傾げると、可愛らしくにっこりとほほ笑む。

「まぁ、加賀見さんの尊い顔を毎日拝めて、私もだいぶ潤ってるけど!」

 同期は両手を胸の前で合わせると、うっとりとしたような顔をした。

「それにしても、あんな人とキスしたなんて、ほんっと咲良が羨ましい。その後、進展とかないの?」

 ぐいぐいと顔を寄せ、もっと話を聞きたそうな同期にほほ笑みだけ返すと、白戸は更衣室を後にした。


 人気(ひとけ)のない静かな廊下を、軽い足取りで進む。

 研修は定時後に行なわれていることもあり、辺りはシーンと静まり返っていた。

 エレベーターに乗り込んだ白戸は、腕時計に目をやると口元をほころばせる。

 この時間に会社を出れば、加賀見と帰りが一緒になることは、ここ数日で確認済みだ。

 白戸は弾むような心持でエントランスをぬけた。
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