清くて正しい社内恋愛のすすめ
 確かに相手が穂乃莉であれば、たとえ不満に思う人がいたとしても、みんなも易々とは態度に出せない。

「最っ低!」

 穂乃莉は加賀見を睨みつけると、そのまま詰め寄る。

「自分がモテるから、人のこと虫よけ代わりにしようってこと!? そんなの、真剣に加賀見のこと想ってる子に対して失礼じゃない!」

 穂乃莉は鼻息荒く声を出すと、プイっと顔を背けた。


「あのさぁ。お前、なんか勘違いしてるだろ?」

 加賀見はため息をつくと、資料を棚に戻しながら穂乃莉の顔を覗き込む。

 加賀見に見つめられている頬が、じりじりと熱い。

 穂乃莉は恨めしそうにチラッと目線を送る。


「加賀見にとっては、挨拶程度なのかも知れないけど……」

「何のことだよ?」

「キスのこと! 虫よけだったら、フリでいいじゃない。あんなキス……しないでよ」

 穂乃莉はつぶやくようにそう言うと、再び逃げるように背を向けた。

 今顔を見られたら、こんなにも鼓動が早くなっている心の内を、加賀見に知られてしまう気がする。
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