清くて正しい社内恋愛のすすめ
 あの日白戸は、穂乃莉と加賀見がしている恋愛が“契約恋愛”だと知った。

 そして二人が、まだお互いの気持ちを打ち明けていないことも同時に知ったのだ。


 ――フロアで抱き合ってるのを見た時は、本気で付き合ってるのかと思って焦ったけど……。まぁ結局は、ピュアすぎるお嬢様ってことよね。


 白戸はウェーブのかかった髪を弾ませると、くすりと肩を揺らす。

「私にも、簡単に邪魔されちゃうし!」

 白戸は笑いを堪えきれない様子で口元に手を当てると、くすくすと声をたてる。


 穂乃莉と加賀見がただならぬ雰囲気で外出から戻った時、二人の顔つきを見て白戸はピンと来た。

 こういう時の勘は冴えている。

 すぐに受付に保管している名刺ケースの中から、加賀見の得意先の名刺を取り出し、そっと後をつけるように休憩スペースに行った。


 そこからは簡単だった。

 加賀見を受付に連れ出し、いるはずのない取引先の担当者を探した後、「急用で帰ったようだ」と嘘の電話を受けたフリをしたのだ。


 ――退職まで、とことん邪魔してあげる。そうすれば、自然と加賀見さんは私のものだわ。


 白戸はほくそ笑むように、口元を引き上げる。
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