清くて正しい社内恋愛のすすめ
 今までも欲しいものは全部、そうやって手に入れてきた。

 手のひらで躍らすように周りを動かせば、自然とみんな白戸の虜になったのだ。

「真っ正直にぶつかるなんて、絶対に嫌……」

 小さくつぶやいた白戸は、急に背後に人影を感じて、ビクッとしながら振り返った。


「白戸咲良さんですか?」

 突然声をかけてきたのは、スーツ姿の男性だ。

 白戸は怪訝な顔をすると、さっと男性の姿を上から下まで目でなぞる。


 ――なかなか良さそうなスーツ……。誰……?


 男性はそんな白戸の目線にも一切動じず、ぐいっと一歩近づいた。


「突然声をおかけして申し訳ありません。白戸咲良さんでよろしいでしょうか?」

 再び自分の名前を呼ばれ、白戸は不信感いっぱいの目線を向ける。

「あの、どちら様ですか?」

「これは失礼。私こういう者です」

 白戸は男性が差し出した名刺を受取ると、自分の手元をじっと覗き込む。

 そして、はっと顔を上げた。

 そういえば、この男性は一度見かけたことがある。


「あなたのお話を伺いたいと、私の上司が申しておりまして。よろしければ、一緒にご同行いただけませんでしょうか?」

 男性の言葉遣いはとても丁寧だ。

 白戸はしばらく考える様子を見せていたが、静かにうなずくと男性の後について歩き出した。
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