清くて正しい社内恋愛のすすめ
 白戸はフォークを口に運びながら、「まぁ、私が邪魔してるってのも、あるんですけど♡」と付け加えた。

「そうでしたか……」

 東雲は静かに声を出すと、あの夜の穂乃莉の顔を思い出す。


 ――だから、あの表情(かお)だったのか。


 「心の中の彼と将来を約束しているのか?」と東雲が聞いた時、穂乃莉は明らかに動揺し、戸惑った顔をしていた。

 それは二人がお互いの気持ちを、まだ確認し合えていないことに他ならない。

 そして穂乃莉がそれを言い出せないのは、久留島の将来が自分の肩にかかっているという責任感からだろう。

 たぶん穂乃莉は、祖母である久留島社長にも、加賀見の存在を言えていない。

 もし言えていたとしたら、東雲の食事の申し出の際に、久留島社長があんなに乗り気になるはずがないのだ。


 白戸の話を聞いて、契約恋愛という二人の関係性はわかった。

 そして、どれだけ惹かれて恋をしていても踏みとどまってしまう程、穂乃莉にとって久留島グループの存在が大きいということも……。
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